「どうして出られたの?」

 わたしの世界は言葉通り、お母さんとわたししかいなかった。外の世界を知らずに育ったわたしは、出たいと思うこともなかった。それでも、そこが安全な世界ではないことも知っていた。

「猫がいたんです」

「猫?」

 わたしは頷いた。

「その日、わたしはお母さんいない時に窓を開けました。そうしたら、猫がいたんです。テレビの中でしか見たことのない猫に触ってみたいと思いました」

 窓のずっと下で猫はくつろいでいた。わたしは手を伸ばしたけど、もちろん届かなかった。

「手を伸ばしていたら、窓から落ちたんです。二階から落ちたわたしは気を失って、そこを見つけられたんです」

 目を覚ますとわたしは病院と呼ばれる場所にいた。お母さんは警察に呼ばれていたらしい。

 そして、お母さんとわたしは引き離された。

 狭い部屋で暮らしていたわたしの身体は動き回るにはあまりに頼りなくて、リハビリをした。そして、それは心にも必要だったらしい。

 動けるようになったわたしはここへとやってきた。清川さんに会い、これから生きていくのに必要なことを教えてもらうことになった。

 わたしはお母さんとわたしのこと以外、何も知らなかった。