嫌いではない。それでも、落ち着かない。身体がざわざわとして、酷く不安になる。
それは多分慣れていないから。
「どうして?」
七斗くんは表情を変えずに訊いた。
「暗いところにばかりいたからです」
わたしが答えると、七斗くんは少しだけ眉を下げた。
「わたしはお母さんとアパートで暮らしていました。お母さんは昼間はいなくて、わたしは絶対に出てはいけないと言われていました。電気を点けずにお母さんの帰りを待っていました」
お母さんが帰ってくるのは外が暗くなってからだった。
「お母さんは帰ってくると、わたしを押し入れに入れました。朝になるまでわたしは出れませんでした」
狭くて暗い押し入れで眠りながら朝が来るのを待った。身体が大きくなってくると、縮めていてもあちこちを壁にぶつけた。小さな痣が幾つかできていた。
「どうして?」
七斗くんは眉を下げたまま訊いた。
「……わたしを誰にも見せたくなかった、とお母さんは言っていました」
閉じ込められてはいたけど、叱られたり殴られたりしたことは一度もなかった。お母さんはいつも優しくて、わたしの誕生日には必ず大きなケーキを買ってきてくれた。
「誰からも隠してたの?」
わたしは頷いた。
大切すぎて隠していた。お母さんは心の病気だった。
清川さんからそう聞いた。