「疲れてはいませんよ」
わたしが答えると、七斗くんはそうなの、と返してきた。
「新しい環境を与えられると、人は疲れるものなんじゃないの?」
七斗くんは不思議そうに呟いた。
「そう、なのでしょうか? でも、わたしは疲れていませんよ」
そう、と七斗くんは首を傾げた。
「でも、とりあえずお風呂に入って休みな。もしかしたら、疲れているかも知れない」
「はい」
わたしが頷くと、七斗くんはよし、と言った。
お風呂に入り、自分の部屋へと行った。その中にはベッド、クローゼット、ローテブル、一人用のソファが整えられていた。クローゼットの中にはいつの間にかわたしの物がしまわれている。
わたしはベッドに潜り込むと、静かに目を閉じた。眠気はない。だからか、昔の記憶が蘇る。
いつもいつも暗かった。部屋に入り込む光は僅かで、電気を点けることはなかった。夜になると明るいこともあったが、わたしはもっと暗いところへと入れられるのでそれを身体に浴びることはあまりなかった。
だから、この場所は少しだけ眩しい。光に慣れていないわたしの目と身体は目眩を感じる。
暗いところの方が落ち着く。明るい場所は苦手。
わたしはゆっくりと羊を数え始めた。これは眠れない時のおまじない。清川さんに教えてもらった。
わたしはいつの間にか意識を手放していた。