七斗くんはそう、と言って微笑んだ。猫みたいな大きな目が少しだけ細くなる。

 リビングはわたしが出ていった時のままで、七斗くんが食事をした様子はない。

 食事はどうしたんですか?

 そう訊こうとした時、ドアをノックする音が聞こえた。

「多分翔太だね」

 七斗くんはそう言いながら玄関へと向かった。

「やあやあ、弟よ。元気にしていたかい?」

 陽気な声がリビングまで届いた。

「正確には弟じゃないでしょ」

 七斗くんが冷静に返している。

「弟みたいなものだよ。どう、何かあった?」

 声が近づいてくる。

「何もないよ。何かあったら報告してる」

「そう、それならいいけどね。お、君が清川のところの珠理ちゃんか」

 リビングへとやってきた男の人はわたしを見ると笑顔を向けた。

「はい。珠理です」

「そう。初めまして、中河翔太です」

 翔太さんは笑顔のままわたしに右手を差し出した。

「七斗のこと、よろしくね」

 わたしの右手をとると、強く握った。おそるおそる握り返しながら、わたしは頷いた。