「中学は家柄がいい子たちばかりで、自分の家の自慢しかしないの。私に対しても、家の自慢するため、私の親に付け込もうって感じの子ばかり。それが嫌で、普通の学校に進学したの」
梓紗の中学はテニスの強豪校で、そして幼稚舎から大学までのエスカレータ式のブルジョワ学校と名高い所謂【いわゆる】お嬢様学校だった。
多分幼稚舎からずっとそこに通っていたのだろうから、本来ならご両親にも反対されるだろう。
すると、それを悟ったのか、『両親には本気で反対されていたけれど、願書も出した後だったから』と笑顔で言う彼女。
「だから、私のことを誰も知らないここに来たの。家柄も伏せて、何も言わずに。だから、私の家柄を知らなくても仲良くしてくれたのは、瑞華ちゃんが最初なの。私の初めての友達。瑞華ちゃんには本当に感謝してるの」
「だから、瑞華ちゃんさえいればいいって思ってた」
「え…?」
そこが繋がる理由がわからなかった。
どうして、私さえいればいいって思うの?
だって私は、梓紗よりも恋愛を…加地くんを取るような最悪な奴なんだよ?
どうしてこんな私を、梓紗はそんな風に言ってくれるの。
「だから、加地くんのことが好きなフリをしたの」
「…どうして?」
「加地くんと付き合ってしまえば、私のことなんてどうでもよくなっちゃうんじゃないのかって。そんなことを考えちゃって、なら、私が加地くんのことが好きになったフリをすれば、いいんじゃないのかなって思ったの」
ああ、彼女は。
強いように見えて実は、こんなにも弱い子だったんだ。
辛そうだった理由は。
悲しそうだった理由は。
すべて、友達を失う恐怖から。