夏は、私が思っていたよりもつらかった。
緩い美術部に入っている分、暇な時間が多くて……陽平を思い出す暇もないほど忙しかったから、これまで忘れられた気でいられたのに。
ふと去年の夏を思い出してしまう、ぼーっとする時間が嫌いだった。
……ほら、今だって。
忘れたいはずの思い出に浸っていつまでも陽平を未練たらたらで想っている。
もともと夏はあまり好きじゃなかったけど。
もしかしたら、前よりももっと嫌いになったかもしれない。
夏とつながってしまう私の名前すら、恨めしく思える。
……いい加減のぼせてきたかもしれない。クラクラしてきた。
私はお風呂からあがり、軽い嘔吐感を覚えながら服を着替え、髪を乾かし、再び寝ようとベットに入った。
(何やってんだろう、私……)
毎日毎日こんな生活をしていて、ほんと馬鹿みたい。
こんなに想ったって、陽平は、あの日々は帰ってこないのに。
私がいくら涙を流しても、陽平は私を思い出す事なんてないんだろう。
いい加減、前に進まなきゃならない。
苦しいけど、辛いけど、いつまでもウジウジしている訳にはいかないから。
……そう、決意しても。
きっと、陽平を忘れるのはとても大変なことなんだろう。
それに、まだ……どこかで、陽平を忘れたくないと叫ぶ私がいる。
……だから、せめて。せめてこの夏が終わるまでは。
こうして、陽平を好きでいようと思った。
(……明日、花火大会なんだよね)
カレンダーを見て思い出す。
決めた。行こう。花火大会。一人で。
陽平との約束の花火大会。何年ぶりかに浴衣を着て、一人で行こう。
きっとすごく惨めになるだろう。きっとすごく苦しくなるだろう。
……でも、どうせこの夏が終わるまでしか好きでいられないんだから。
嫌になるくらい、『陽平の思い出』に浸ってやろう。