思いもよらぬ事を言われて俯いていた顔上げると、ちょっと不服そうな陽平の表情。
「花火大会と言えば浴衣だろー、俺、葉月の浴衣姿見たかったわ……」
「…………」
“浴衣姿見たかった”なんて。
そんな……思わせ振りなこと、言わないでよ。
彼女でもないのに……。
「まあいいや、じゃあ来年な?来年の花火大会は絶対浴衣で来いよ!」
「……えー」
「ちょ、何そのえーって!」
慌てる陽平。……なんか犬みたいだ。
「浴衣だったら下駄でしょ……。下駄って、すぐ靴擦れしちゃうんだもん……」
私はそれを、至極真面目に言ったのに。
「……ははっ、葉月らしい」
「どういう意味」
「いや、何でもない……、じゃあわかった、靴擦れの方は俺がなんとかしてやるから、な!」
嬉しそうにそう言う陽平の笑顔が好きだから、
私は、なんだか馬鹿にされてた事を忘れて頷いてしまうんだ。
「……わかった、来年は着てくるね」
「おう!……まぁ、今日の葉月も好きだけど……」
「え?何?」
最後の部分がうまく聞き取れなくて、私は聞き返す。
「いや、何でもない。それより、今日は楽しむぞ!また出店出てるみたいだから」
「ほんと?」
単純な私は、陽平が私の問いをスルーした事を気にも留めず、出店の情報を喜んだ。
出会ったあの日、結局急いで帰ったから、出店はひとつも回れなかったんだっけ。