ねえ、もし、
もしもあのとき、陽平への想いを自覚しなければ、
あんなに苦しまずにすんだのかな?
* * *
遠くの方から蝉が掻き鳴らす不快な音が響く。
時折窓から忍び込んだ風が風鈴を揺らす。
どこにいても、いやになるくらい夏を感じてしまう。
ベッドに寝転んでぼーっとしていた私は、壁に向かって丸くなり、両耳を塞いだ。
夏を感じたくない、思い出してしまうから。
陽平を思い出したくない、まだ、想いを忘れていられてないから。
……苦しいよ。
胸の痛みから逃れる様に、私は目をつぶってまどろみのなかに落ちていった。
遠い夏の、幸せな記憶のなか。
あなたのその、微笑みのもとへ……。