「お母さーん、私今日図書館行ってくる」
着替えをすませた私は、部屋からキッチンにいる母に向かって声を張り上げる。
「え?図書館?何時ごろ帰ってくるの?」
同じく声を張り上げて、キッチンから母の返事が返ってきた。
ああ、そっか。冷房ついてる図書館で一日過ごしたかったけど、お母さんからしたら、用事が済んだら帰ってくる前提があるんだよね。
うーん、どうしよう……。
私は頭半分で悩みつつ、ヒントが無いかと何気なく部屋を見回す。
ヒントって言ったって、狭い簡素な部屋、学校の制服が壁にかかって、机に宿題が散乱してるくらいで何にも……。
机に宿題が散乱……?
それだ!
確か、図書館の中に、勉強したり本読んだり休んだりするスペースを提供する部屋があったと思う。
そこで宿題してくるって言えば、一日涼しいとこで過ごせるよね。
私は鞄にいくつかのテキストと筆記用具を詰めて、玄関に向かいつつお母さんに言った。
「宿題やってくるから夕方まで帰んない!」
「え?宿題なら家でも出来るでしょう?」
「家じゃ集中できないのー!」
お母さんの声を背中で流しつつ、靴に足を突っ込む。
「ちょっと葉月」
「いってきます!」
お母さんとの会話を強制的に切る形で、私は外に飛び出した。
……うん、まあ、何とかなるはず。
宿題やるって言ってるんだから、きっと平気だよね。
自転車に跨がった私は、図書館に向かう道に思いっきりこぎだした。