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懐かしい。



忘れもしない、あの夏の日の出逢い。



あのときは結局名前も聞かずに帰ってしまった私だったけど、その日、寝る前に少しだけ、あなたの事を思い出した。



助けてくれたのに、丁寧にお礼も出来なかったな、失礼だったかもしれない、とそんなことが引っかかってしまって。



多分もう逢うことなんてないから、それがすごく心残りのように感じていたんだっけ。



人の事を面白いとか言うし、あんなシーンで素直にわざわざ「通行人」と言うような、言ってしまえば変な人だったけど、それでも悪い人ではなかったと思う。



私を助けてくれたその目の優しさは、しっかりと私の心に染み付いていた。



柄の悪い人たち相手に正々堂々嘘をつかなかったその姿が、ほんの少し、かっこいいなと思っていたのも本当で。



もし縁があってまた逢えたら、向こうは私のことなんて覚えてないかもしれないけど、その時はゆっくりお礼を言いたいな、とか思って。



でも、また逢えるなんて都合の良くて奇跡みたいな事、あるはずないと思った。





…………そう、思ってたのに。













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