呆然とした表情をとる私に、彼は驚きと笑いが混ざったような声で言った。
「えっ、何?門限って本当だったの?」
「……はい?」
「へえ、言い訳じゃなかったんだ……面白いね、君」
「は、はあ」
よくわからないけど、何やら感心したように頷いている、その人。
「あ、あのさ、名前──……」
……って、そんな場合じゃなかったんだった!
私は、何かを言おうとしている彼に気付かず、慌てて頭を下げた。
「あっ、あのっ、とりあえず、今日はありがとうございました!ほんと助かりました!では、門限あるので失礼します!」
そう言うだけ言うと、私は踵を返して家に向かって走り出した。
振り返ろうなんて思い浮かびもせず、頭の中には、門限を破った焦りしか存在しなかった。