そうしたら、まるで嵐のように。
そう、真夏なのに嵐みたいに、あいつはあたしのことをかっさらって行ったんだ。
あたしが何を聞いても答えてくれなくて。いつも悲しそうな顔をして。
キスしていいよ。
そう言った時だけ、安心した顔をする。
だけどそれ以上は絶対に望んでくれなくて。
『−−−ごめんな』
キスも心も、奪ったのはあいつなのに、その4文字が口癖だった。
本当に好きだった。
好きになっちゃいけないって思えば思うほど好きになってた。
夏と一緒にやってきて、夏が終わると同時に、あたしの前から消えた。
キスと心を奪ったまま。記憶と後悔だけを、あたしに残して。
「おばあちゃーん、お母さんからのお土産持ってきたよー」
開けっ放しの縁側から靴を脱いで、おばあちゃんの家に入り込む。
いつもはすぐに聞こえるはずの返事がなくて、荷物を持ったまま座敷に上がった。
「−−−−なん、で……」
右手のクーラーボックスが床に落ちて、鈍い音を響かせた。
自分の目を疑った。
3年前に消えたあの夏が、そこにあったから。