「どうしてもね、会議の前に言っておきたい事があったんだよ。樹に」


ヒロの横に座り、ホッと溜め息をついた。



「……椿が言いたい事ってさ、紅蓮にとって良い話……?」

私の顔色を伺うヒロの頭に、ポカリと一発お見舞いした。

「私の顔見て分かんない?悪い話に決まってんだろ」



ヒロが思い詰めたような真剣な眼差しで私を見た。

その左手は、私の二の腕を痛いぐらいに掴んで離さない。


「……『蘭』が、『紅蓮』から離れるのは、仕方ねーかも知んねぇけど」


ああ、ヒロもそれは想定内だったんだね。


「でもお前は、樹からは、離れないでいてやってくんねぇか……?」


私が、樹から?


「それは違うでしょ、ヒロ。私が樹から離れるんじゃなくて、樹が私から離れたいんでしょ?」

本当は分かってた。

ホストクラブなんかやる前から、樹は私以外のオンナ達と遊んでた事。

樹にとって、邪魔なのは私。


「違う!!樹はそんなんじゃないんだ…」

「じゃあ、樹にとっての私って何?紅蓮にとっての蘭って何なの?」


切羽詰まったヒロに、自分でも驚くほど冷静に声をかけた。


「樹にとっては、お前はなくてはならない存在なんだよ。それは蘭だって一緒なんだ。本当は紅蓮には蘭が必要だ。だから……」

「理由も教えて貰えないまま、うちのコ達にも苦しい思いはさせられないよ」


話は終わりだ、と私は腰を上げた。


「樹の家の事」


不意に口調を変えたヒロを、訝しげに振り返って見つめた。