――花火大会当日。
ドキドキしすぎて焦って、松原くんに言われた時間よりも三十分以上早く着いた。
先輩、まだバイト中だよね・・・。
こっそり週刊誌でも立ち読みして、時間になったらさり気なく出て行けばいいよね。
「あれ?奈美ちゃん??」
「ひっ、先輩!」
急に現れた先輩にビックリして、声が裏返る。恥ずかしくて、一瞬で顔が熱くなった。
「ずいぶん早く来たね~」
「あ、その、楽しみ過ぎてそわそわしちゃって・・・」
「え・・・ホント?なんか嬉しい」
頭をかきながらはにかむ先輩。
あれ?無理矢理、松原くんに約束させられた訳じゃないのかな?
なんだか反応が、想像してたのと真逆だし・・楽しみにしてくれてたように見える。って、自惚れすぎだよね。
「じゃあ、もうちょっとで上がるから、それまで待ってて?」
「あ、はい!」
・・・・・
「お待たせ!行こうか」
「よろしくお願いします!」
「あはは、そんな固くならないで?久しぶりにゆっくり話せるんだから」
うわあぁ・・・、いつも以上に優しい気がするのは気のせい?心臓が持つか不安だよ・・・。
「そういえば、俺の家と奈美ちゃんの家ってね、実は結構近いんだよ」
「そうなんですか!?でも先輩のこと、学校と本屋以外で見かけたことないですよ?」
「まあ、いつも原付だしね。それにバイト先と家の往復生活だからね~」
働き者だなあ。私なんてバイト経験ゼロだし、家でごろごろしてるだけなのに。
「あ、そういえば。まつ――海くんに聞いたんですけど、花火・・行くつもりなかったんですか?」
聞いたときから凄く気になってたんだ。なのに、直接誘った訳じゃない私と行ってくれるなんて。それもバイト終わりで疲れてるはずなのに。
「うーん。前にちょっと、ごたごたになった事があってね。だから、イベント事はバイトを理由にして避けてるんだ」
「じゃあ・・、なんで私と・・?」
それまでにこにこしてた先輩が、ふっと真面目な顔になる。
「奈美ちゃんと二人きりになりたかったから」