ふと、視界に影が射した。

振り返ると、稚早が私の真後ろに立ち、黒板の消し残した文字を消していた。

私の届かなかった場所を、稚早は難なく消してしまった。


以前は、私とさほど変わらなかったのに。


私の長くなった髪と、同じ時の流れを感じた。


「ありがと」

小さく礼を述べた。


「髪伸びたな」

稚早が呟いた。私の頭の上に手を重ね、その上に顎を置いて。


「加藤くん、今は何月?」


「は?6月の終わりだろうが。其が「暑い」


「・・・」


身を捻り、稚早から体を離す。当人は固まって居るが、そのまま私は机に向かい、帰る支度を始めた。



「浅谷ぁ、一緒に帰ろうぜ?」


稚早の言葉にぴたりと動きが止まった。


「何故?」