三年前、俺らは出会った。
汗がべとっとへばりつく、蒸しかえすような梅雨の日だった。
*******三年前********
「二宮さん、長さはこれくらいですね。ええと…カラーどうされます?」
「あ、任せます」
「了解です。(笑)」
行きつけの美容院のオーナーが店をたたんで、マネージャーの勧めで都内の美容院を紹介された。
テレビ局からもまあまあ近いし、撮影の合間に来るには丁度いい店だった。
担当は俺の3〜4個下くらいの若い兄ちゃんで、芸能人の相手をし慣れてるのか、テンションもこっちに合わせてくれた。
役作りとなれば話は別だけど、俺は基本的に自分の髪型とか髪色に全くこだわりがない。今回もマネージャーにそろそろ切って下さいって言われたから来ただけ。
やる事もないからポケットから携帯を取り出す。
すると急にガチャンとドアが開いて、女の人が叫びながら勢いよく駆け込んできた。
バレたか……
「まさとー!!!ね、当たった当たった!!」
……ん?
「ね、当たったんだって!いいともの観覧ー!!!やばいよ!タモさんに会えるよーーー!!!」
そう言ってその小柄な女の人は後ろの担当の兄ちゃんに抱きついてピョンピョン跳ねた。
高い位置で結ってある肩まで伸びた髪が、柔らかく揺れた。耳にはカラーストーンのピアスが光る。
日曜の朝っぱらから元気な人だな…。
「うおっ、ちょっと待てって姉ちゃん!今、ほら…仕事中だから。」
すると彼女はハッとて兄ちゃんから離れ、俺の方を見た。
「わー、ごめんなさい!あ、二宮くんだ!お騒がせしました〜!ごゆっくりどうぞ!」
ぺこりお辞儀して去っていく彼女。
もっと絡まれるかと思ったけど案外あっさりしていたのに驚いて、唖然としてその後ろ姿を見つめる。
手には観覧の招待状を握りしめていて、足取りはすぐに浮いてしまいそうなぐらい軽かった。頬は桜色に染まっていた。
「名前…」
「…はい?」
「…名前、なんてゆーの」
「あ、まさとです」
「違う。お姉さんの。」
「あっ、姉ですか。
はる、です。
晴れるっていう漢字1文字で、晴。」
ーーーーーーー晴。
それが俺とあんたの出会い。