「今日から、お嬢様の執事になった、藤原奏哉といいます。お嬢様、朝食のお時間なので…」
「いらない。今はそんな気分じゃないの。早く出てって」
「…かしこまりました」
足音が、少しずつ遠ざかっていく。
短くため息をついて、部屋にある大きな鏡を見た。
ひどい顔だ。
泣きすぎて、目の周りが真っ赤になっている。
次に、自分の手を見た。
…いくつかの“剣ダコ”。
長年剣道をやってきた証拠だ。
しかし、確かにこの手で、椿は人を斬ったのだ。
それがまさか、翔太の弟だったなんて…。
「ごめんなさい…」
素直に、そんな言葉が口から出てきた。
自分の手を両手で包み込むようにさする。
そしてベッドへ向かい、椿は眠りに落ちた。