彼女が、出ていこうとしている。


おれはなにもできないまま、その空気を背中で感じとっていた。

枕元でなにか音がしている。



今ここで起き上がって、また彼女を組み伏せてしまえばいい――おれがどれほど彼女を愛しているのか、いやというほどわからせればいい。

もう二度と離したくない。
もう、おまえを思って眠れない夜を過ごすのはごめんだ。



引き止めようと思えば、それはすぐにでも可能なはずだった。

彼女だって、相当な覚悟を決めてきたはずなのだから。


でも、それがおれにはできなかった。


目覚めた彼女はまるで、幸せな夢からも醒めてしまったようだったから。