お客さんも熱狂している中で声を張り上げて理由を話すには、体力的にもキツいし、大声で話せるような内容でもない。

すごく良くしてくれたメルさんには心苦しいけれど、あとで葉司から聞いてくれたら、あたしが話したがらなかった理由も、葉司がここへ連れてきた理由も、分かってもらえると思う。


「さて。帰りますかね」


バッグと紙袋を持ち直し、『ねこみみ。』が入っている雑居ビルを見上げて言うと、今度こそあたしは、自分の部屋があるホームグラウンド行きの電車に乗り、家路についた。

途中、飲み直したいと思って、コンビニに寄って缶チューハイとおつまみをいくつか買い、部屋に入るなり、それらを飲み食いしはじめる。


「……うう、ううっ」


けれど、1分もしないうちに、あたしは体を小さく丸め、肩を抱き、ガタガタと震えながら嗚咽をもらして泣きはじめてしまった。


「送ってよ、葉司のバカぁ~」


やはりあたしも、ちゃんと女の子らしい。

口では虚勢を張って「1人で帰れる」なんて言ったけれど、飲む気満々でコンビニにも寄ってしまったけれど、本当は、本当は……鍵もしっかりかけて窓のカーテンも締めきり、安全にはなったものの、怖くて怖くてたまらないのだ。