「……い、いいよ、大丈夫。あたしなら足腰もしっかりしてるし、1人で帰れるし」

「マコ」

「ほんと、1人で大丈夫だって。葉司はお店に出たほうがいいよ。愛菜目当てのお客さんをこれ以上待たせらんないもん」

「……マコがそう言うなら、うん。分かった」


葉司は納得していなかったようだけれど、渋々ながらあたしの手を離すと、少し距離をとり、うつむき加減でこちらに目をやった。

そんな葉司を改めて見ると、肩幅ほどに足を開いて立ち、顔はばっちりメイクをしているものの頭はカツラの圧力でぺしゃんこ、着ている服は女子高生の制服、というミスマッチ具合に、思わずくすっと笑ってしまいそうになる。


けれど、いくらコメディタッチな日々を送っているあたしでも、ここが笑う場面ではないことくらいは、十分に承知済みだ。

お互いに「じゃあね」と言い合うと、あたしはドアノブをひねり、店の中に出ていく。


店内を出入り口に向かう途中、心配顔のメルさんに駆け寄られ「何があったの?」と尋ねられたりもしたのだけれど。

ちょうどステージでは歌とダンスが繰り広げられていて、あたしは「大丈夫ですから」とだけ言って頭を下げ、そのまま店の外に出た。