こうして葉司に話してみて、今、ようやく、事の重大さにピンときたように思う。

美味しいケーキ屋さんを知っているからついて行った、だなんて、お菓子をあげるから家においで、と幼い子どもをどうにかしようと目論む悪い大人について行くのと同じことだ。

状況は違えど、現にオトナのホテルに連れ込まれそうになったのだから、大学生という立場からも、20歳という成人の立場からも、とても軽率で恥ずかしい行動だったと言えよう。


葉司はうつろな目をしたまま、いまだ、これといって何か言ってくるような様子はない。

けれど、目は口ほどに物を言う、とでも例えたらいいだろうか、それがかえって、心配をかけさせてしまった罪悪感を大きくしていく。


「……ほ、本当にごめんね、葉司。それと、助けてくれてありがとう。嬉しかった」


いたたまれなくなり、そう言って、あたしはコートとバッグと、奈々とお揃いで買ったストラップの入った小さな紙袋を持って立ち上がる。

こんなふうに葉司と向き合って会話をすることは、これが本当に最後になるだろう。

最後くらい笑った顔が見たいのだけれど、話した内容が内容だけに、きっとそれは叶わない。