少しだけ緩まっていた先輩の腕に、また力がこもり、あたしは、そのあまりの力の込め具合に「う……」とちょっと呻いてしまった。

恥ずかしながら、先輩の親指があたしの鼻の穴に入りそうなのだ、そりゃ呻きもするさ。

だって痛いんだもの。


「いろいろとヨロシクお願いしますよ、まことちゃん。楽しい夜にしようねー」

「……」


ホテルの入り口までの短い階段を、先輩に引きずられながら一段、一段、上っていく。

葉司としていたときは、ほとんどが葉司の部屋で、たまにあたしの部屋、という感じだった。

加えて、あたしにとっては葉司が“ハジメテ"の人だったから、こういったオトナのホテルに入るのはこれが人生初、ということになる。


人生経験として入っておきたいと常々思ってはいたのだけれど、まさかカラダが目当てだった先輩と、しかも脅迫まがいのことをされて入ることになろうとは、一体誰が想像しよう。

さすがのキリスト様も、目ん玉が飛び出そうなくらい、びっくりしているに違いない。


ていうか、誰か助けてくれ!!

マジでマジでマジでーーーーっ!!

なんで誰も通らないの!? ねぇ!ねぇ!!

世の大人のカップルたちは、今日はそういうことをする日じゃないの!? 時間的にまだ早いの!?