まだ遠くにしか見えないけれど、もし先輩がそっち方面に行こうというのなら、あたしは全身全霊をもって阻止しなければなるまい。

先輩とそんなことには絶対になりたくないし、そもそも、彼氏がいると知っていながら、さらには、いつもぞんざいな扱いをされていながらも「まことちゃん、まことちゃん」としつこく言い寄ってくるような先輩なのだ。

あたしが一言「ふざけんな」とでも言えば、恐れおののき、来た道を引き返すに違いない。


先輩はあたしより立場が弱く、あたしは、先輩よりずっと上の立場にいる。

間違いなど、万に一つもありはしないのだ。

が。


「まことちゃん、俺、そろそろ本気出しちゃうよ? ケーキ屋さんなんて本当に知ってると思ってついてきたの? はっ、バッカじゃん」


怪しいネオン街の始まり付近に差しかかったとたん、くるりとこちらを向いた先輩は、口調や態度もがらりと変え、あざ笑うかのような笑みを浮かべると、そう言い放ったのだ。


「何いきなり口調変えてんの。そんなんであたしが怯むわけないでしょ。バカか、茨城」


けれど、当然ながら、あたしは怯まない。

だって先輩はバカなのだ、バカと言われても先輩のほうがバカなのだから、腹も立たない。