昔は作業員の宿直室だったらしい部屋は、俺の私室に使っている。



部屋の隅に置いてたシングルベッドに桜空をそっと降ろした。



「……お前の事を教えろ。どこに住んでんのか、学校の何年生か、なんでハブられてたのかも」

「どうしテ、タツキは私ニ構うノ?」

「多分、お前が好きだ」


こんなのどうかしてるだろ。馬鹿げてるだろ。


愛だの恋だのなんて綺麗事、一番自分には縁がないと思ってた。


なのに何だよこの様は。




「……タツキ……」



俺を押し返す桜空の腕から力が抜けた。



「好きっテ、どうシテ?だって、タツキとは初メテ会ったのニ?」

「……自分でもよく分からねぇ。だけどお前とは離れたくねぇ。だから多分お前に惚れたんだろ」


桜空の顔を見れば、涙は止まって替わりに真っ赤な林檎みたいに頬が色づいてる。


本能のままその頬に吸い付いた。


きゃっ、と悲鳴を上げて桜空が俺を拒絶したが、逆に抱く力を強めて腕に閉じ込めた。


「だから聞かせろって。学校の何年生だよ?」


耳元で囁くように言うと、桜空の体がぶるりと揺れた。


「私は、2年生ヨ。……アノ人達の中の誰かノ恋人に、私が告白したデショって……」


下らねぇ理由だな、おい。


「それであいつらに呼び出されてた訳か?」


桜空はこくん、と頷いて、また目に涙を溜めた。


「私、そんな事シテない。好きな人なんテ、いないノニ。どうして……っ」


たどたどしく、一生懸命に自分の話をする桜空が愛しくてどうにかなりそうだ。


つーかハブってた奴らはどうせ桜空の容姿にも嫉妬して、ただ言いがかりをつけただけだろ?


ふざけんな。


こんなに綺麗な生き物をそんな下らねぇ理由で汚すなよ。あん時、滅茶苦茶に暴れてやりゃあ良かったな。