「…それでネ、タツキに、お願いがあるノ」

「何だ?行ってみろ」


叶えられる願いなら、何だってやってやるさ。お前の命の火を消さないためならば。




「…赤ちゃんガ、欲しい。タツキと、私の赤ちゃん」

「…それは…」



幾ら現実を見たくなくて桜空を元気づけることは出来ても、桜空の寿命を縮めるかもしれない行為だけは……出来る訳がない。



「お願い、タツキ。私、自分が生きたことを残したイ。私とタツキの赤ちゃんデ、幸せに暮らすノ。それが今の私の夢ナノ…」



桜空が助かる確立は限りなくゼロに近いと主治医は言っていた。


耳を塞ぎ逃げ出したところでそれは変わらない現実。



だが、残された時間をより長く、桜空と共に過ごしたいのが俺の願いだ。




一ヶ月でも、一日でも長く。



「私ガ、タツキの記憶の中にだけ生き続けるのハきっと無理ヨ。だから、私、タツキの赤ちゃんを…」

「もう、いい。喋るな」



希望があれば、白血球が増加して病気の進行にも影響がでるとかネットでは実しやかな噂も流れている。



…これは、ただの賭けだ。



だけど桜空の願いは『叶えてやらなければならない願い』でもあるんだ。



覚悟を決めた俺は、夜にまた来ると言い残し、病室を静かに出て行った。