「すごいネ、サクラが、いっぱい!」

「満開の桜ってんだろ」


今この時期が桜の見頃だってことも、俺には無縁だったのにな。


春臣に「桜でも見に連れてけばいーじゃん」なんぞと言われて季節感ってやつが、俺にも芽生えたらしい。



春臣に聞いた桜の隠れ名所に、桜空を単車で連れてきた。


日曜日に溜まり場か春臣の家以外にしかいないから、季節なんて情緒も俺には必要ない生活だったのにな。



ただ桜空の喜ぶ顔を見たいが為だけに、単車を飛ばしてここまで連れてきたが正解だったな。



桜空は夢中でシャッターを切っている。



桜に真剣に見入る桜空の横顔を携帯のカメラに納めた。


桜吹雪の中舞うように桜の木々を回る桜空がいかにも儚げで現のものとは思えない。



手を伸ばしたら、消えてしまうんじゃないか?



……頼むから。


お前だけは裏切らないでくれよ。


人の気持ちが移ろいやすいのは、自分の親を見てきたからよく分かってるんだ。



「タツキ、空見テ!」


桜空が空を見上げて歓声をあげた。




―――一面の、桜吹雪。



咲き誇る時間は短くても堂々とそこに何年も存在して、人を感動させる薄紅色の花吹雪。


「……桜はな、日本人が好きな花の一つだ。お前の名前にも入ってるだろ?」



桜の空。


桜吹雪を示しているかのようだ。



「タツキ、一緒に撮ろうヨ」



桜空が俺の横に来てカメラを構えた。


おいふざけんな。俺は自分が被写体になんのは御免だ。



なのに桜空は問答無用でシャッターを押した。


ツーショットとか。


それだけは勘弁してくれよ。