ほんの少しで良いんだ。そうすれば、俺の中の何かが豊かなものになれそうな、そんな予感がする。


「……タツキ!!」


桜空がでかい声で俺を呼んだ。


何かあったのかと身構えて振り返る俺の耳に聞こえたシャッター音。


「……タツキ、怒ったようナ、顔してル」


桜空は旧式のデジカメを手にくすくす笑って俺に今撮ったばかりの画像を見せてきた。


そこに写っているのは、仏頂面した可愛いげの欠片もねぇ俺の姿。


こんなもん撮ったって面白くも何ともねぇだろうが。


桜空からデジカメをひったくり、連写モードに切り替えてファインダーを桜空に合わせた。



「ヤだ!タツキ、返しテ!」


アワアワしながら駆け寄る桜空を続けざまに連写した。


最後には蹴躓いて転んだクセに、それがおかしくて自分から笑うその姿までを、カメラの中に閉じ込めた。


「おい大丈夫か?」


派手に転んでたが、怪我してたらヤバイよな。


「大丈夫ヨ。擦りむいたダケ。ヘーキ」



まだ笑う桜空の笑顔を、もう一枚カメラに納めてそれを返す。


「後でそのデータを寄越せよ?」


今からSD買いにいくか。そしたらデータコピーできるよな。


「データ…分からナイ。タツキには、写真をあげル」

「携帯に落としてーんだけど。パソコンとか持ってねぇのか?」


桜空はふるふるっと首を横に振った。俺もパソコン持ってねぇんだよな。


じゃあ仕方ねぇな。写真でも今の桜空の笑顔は持っていてぇし。


「なら写真でいいから後でくれ」