二歩下がる。

あと二歩で窓に辿りつける。

もうこうなったら、一か八か窓から飛び降りてみるしかない。

あとは運任せだ。

「もう、梨華は元に戻れないのか? あの頃の梨華に--」

よし、いける。

今しかない!

裕二はずっと黙り込んでいる梨華から目を離さず、背中に全神経を集中させた。

あとはタイミングだ。

覚悟はある。

逃げるにはこれしかないんだ。

そう思った時、梨華が突然笑いだした。

その声は初めて聞くものだった。

どうやら体だけではなく声まで変わってしまったようだ。

太いひび割れた声が耳に響く。

「裕二君? まさかー『逃げれるかもしれない』なんて思ってな~い?」

その言葉に裕二は心臓が止まりそうになった。

だめだ。

ばれている!

梨華は笑みを絶やさず、更に言い迫る。

「だめだよ、裕二君。裕二君は逃がさないよ。だってオークションでマイナスになったんだから。」

「さ、さっきからなんなんだよ! オークションって。俺が何したっていうんだよ」

裕二はついかっとなってしまった。

それは梨華の思う壷だとわかっていても。

梨華は裕二の恐怖に歪む顔を見てか、嬉しそうに言った。