「り、梨華、お、お前がこんなに苦しんでいたなんて――知らなかったんだ」

そう言いつつ、窓の方に後退する。

それを見て梨華も迫ってくるのではないかと思ったが、どうやら頑としてドアの前から動かないようだ。

それはそれでこっちとしては好都合だ。

裕二はあくまで下手に出て梨華の気を逸らすことにした。

窓まであと五歩もない。

窓にさえ辿りつけば少しだが、この最悪な状況から脱する可能性がある、かもしれない。

例え窓に辿り着いても自分の部屋は二階だ。

飛び降りて逃げれる高さではない、かもしれない。

と、とにかく、今は逃げること、助かることだけ考えるんだ。

そ、そうだ! 

まだ俺は生きている。

まだ可能性があるんだ!

なんとか落ち着きを取り戻した裕二は、梨華に謝りながら更に後ずさる。

「梨華、俺は、俺は・・・・・・知らなかったんだ。梨華が俺のことをこんなに大切に思っているなんて--」

また一歩下がる。

窓まであと四歩。

窓は開いている。

これなら――。

「だから、俺、本当に悪いと思ってるんだ。梨華をこんなに傷つけたなんて」