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裕二はドアの前に立ち塞がる梨華から離れるように後ずさる。

梨華はもはや人間ではない。

長く伸びた両手を広げ、足は床にだらりと垂れている。

体のあちこちから血が吹出し、できものが心臓のようにドクンドクンと波打っている。

梨華はまだ新しい体になれていないようでふらついていたが、ドアからはがんとして離れなかった。

それが「逃がさない」そういう意味だと察するのに時間はいらなかった。

もはや目の前にいるのは化け物なのだから--。

裕二は心臓が破裂するぐらい緊張していたが、なんとか平静を保とうと無理に口を動かした。

頭の中では「逃げろ! 逃げろ!」と危険信号が点滅していたが、人間というものは不思議なものだ。

いざ危険に曝されると脳が正常に働かないようだ。

恐らく大量のアドレナリンがそうさせているのだろう。

頭の中がドクンドクンとする。