「最後に握手、してくれる?」



睦月はその瞳でソイツを見上げている。



「だな。きちんと別れの挨拶をしてなかったしな」

「うん、一方的に電話切っちゃって、ごめん」



いや、と頭を掻きながらソイツは睦月に手を差し出した。



睦月は、左手で俺の手を握り締めたまま、もう片方の手をソイツに差し出す。




「お互い、幸せになろうな」



ソイツの言葉に何度も頷く睦月。



握手が解かれると、俺もソイツに手を差し出した。



「やっぱアンタには敵わねーんだな」


多分コイツは、俺とコイツの板挟みになって苦しむ睦月を思いやって身を引いたんだろう。


俺には真似できない、深い愛情。


「今度お前が浮気とかしたら、迷わず睦月を奪いにいくからな。覚悟しろよ」



不敵に笑うソイツは男の俺から見ても魅力がある。



「絶対ぇやんねぇから」


俺は笑った。


続けて、ソイツも。



最後に、睦月が綺麗に笑う。




桜の花びらが睦月の目から水滴を掬って行った。





その背中を見送り、俺達はソイツと反対の道を歩き出す。






睦月の携帯のストラップがふわりと春風に香る。



呼応するように、俺のストラップもしゃらりと揺れた。