「……睦月ちゃん、こっちに……」


しばらくして、治療室の扉から陸斗のお母さんがあたしを呼んだ。



「陸斗と話してみて?記憶に少し、問題があるみたい……」



陸斗のお母さんに優しく背中を押してもらい、震える足を動かして、あたしは陸斗のベッドへ寄った。



なんて、言えばいい?



「………あんたの名前、なに?」


陸斗?


「わり。思い出せなくて……。名前は何?」

「あたし…睦月、だよ」



あたしの名前をきいた陸斗は、とびっきりの笑顔をみせた。



「俺の、彼女?」



言われた瞬間、どきりとする。



「……そうだろ?」


陸斗の言葉は迷いがないぐらい、強い気持ちが込められてて。



「そう、だよ」



だったら、あたしも、もう迷わない。



「なんかさ……。まだ知り合いとかの名前も顔も思い出してねーけど、睦月の顔を見たら……」

「あたしの顔を、見たら?」



「ずっと側にいなきゃいけないって思うんだよな。何でなのか、ぜんぜん分かんねーけど」



なんでよ、ばか。


みんなの名前も顔も忘れちゃったくせに、どうしてその気持ちだけは覚えてるかな。