「サクラ、あぶないっ!!」



ドンッ



鈍い衝撃と共に腕イッパイに抱えていた教科書やらノートやらが宙を舞う。



ほんの一瞬の出来事のはずなのに教科書やノートがやけにゆっくりと落下していく。



音もたてずに落ちていくそれは、まるでゆるゆると風に舞う花びらのようだと思った。



そして、落ちていく教科書やノート越しに白衣がふわりと揺らめいたのを意識が遠退くなかサクラは見逃さなかった。



うぅ...



目を開けるとそこには見知らぬ天井と心配そうにのぞきこむ友人の顔があった。



「サクラ、よかった目が覚めたんだね。すごく心配したんだから!もうっ。」



(あっ、ユリちゃんまつ毛長いし肌もすべすべのつるつるだ。触りたいな触っちゃダメかな。)



なんて変態じみた事をぼんやり考えていると勢いよくユリちゃんに抱きしめられた。



(可愛い顔して案外力強いなユリちゃん... )



「苦しいぃぃ、ユリちゃん放して(泣)また、異世界に飛んじゃうよ!今度こそ帰ってこれなさそうだから、お願いだから放してぇぇ~。なんか出る、口から出るから。... てかさ、私何で寝てるの?」



「もうそんなこと言って。馬鹿サクラあんた曲がり角で先生とぶつかって気絶したんだよ。馬鹿っ。」




(あっ、馬鹿って馬鹿って2回言ったよこの人。)



「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いの?もうホントに馬鹿なんだから。」



「ですよね、すいませんって何で考えている事わかったの?エスパーかコノヤロー。」



「口に出てたわよ。」



「あー、なるほ。で、ぶつかった先生って誰?まさか体育のハヤシとかじゃ無いよね。ハヤシいつも汗臭くて嫌いなん... ねぇユリちゃん私何か声低くない?」



するとユリちゃんの可愛らしいお顔がグッと笑いを堪える表情に変わる。



(??)



ユリちゃんが何か言おうと口を開けた瞬間、誰かに自分の名前を呼ばれた。



その方向に目を向けると、そこには私が立っていた。




私が立っていた?



私が立っていた??



「ぎゃぁぁぁ~、ユユ、ユリちゃん!私がもう一人いるよ。えっ何で?ドッペリゲンガーだよ。どうしよ、見ちゃった。私死んじゃう死んじゃう。」



「何それ、ホストクラブとかでよく耳にするお酒みたいな名前。ドッペリじゃなくてドッペルゲンガーね。」



「すげーな、ユリちゃんホストクラブ行ったことあるの?」



「えっ?いやいやいや、気になるとこそこなの!?もっと他にあるだろ。」




もう一人の私の存在を忘れて話し込む二人。



それを見かねてもう一人の私が不機嫌そうな声で会話に割って入る。



「... お取り込み中悪いんだけどさ、話したい事があるんだよね。」



「ユリちゃ~ん、私が喋った。私が喋ったぁぁ。」



「何そのクララが立った的なフレーズは。ねぇサクラ、自分の体に違和感ない?」




とユリちゃんが私の体を見ながら問いかける。



(違和感ねぇ... 服装が違うくらいじゃ... )




サクラは、どうして自分が白衣を着ているのか気になって急いでベットから起き上がり鏡に駆け寄った。



そして、鏡に写し出されたのはサクラ本来の姿ではなく長身の男性-この学校の保健医-モリ タツマの姿があったのだった。