「―――じゃあな…。

ウルド、お前を乗せてよかったぜ。

イオちゃんを大切にしろよっ」



ぶっきらぼうにハノイは、少し歩き始めたウルドの背中に声をかけた。


ハノイの声に、ウルドは小さく笑い振り返る。

優しい笑み…。

笑い慣れていないせいでぎこちなかった笑みも、今では幾分自然な笑みへと変わっていた。




「俺も…お前と話ができてよかった」


ウルドの口から飛び出したのは、彼にしては珍しく素直な言葉。
ウルドの小さな変化に、イオは笑みを溢す。




「ウルド、とっとと行けよ。
もうじき暗くなるぞ」


ハノイの言葉が背中を押してくる。
そのハノイの瞳が潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。




「―――行こう」


静かなウルドの言葉で歩きだす旅路。



出会いがあれば別れが。
始まりがあれば終わりが。


ウルドはふと、隣のイオを見やる。


やはりだ…。
泣いている。

吸い込まれそうな深緑の瞳から澄んだ雫を溢す。



“涙”


純粋に綺麗だと思った。
心に降る雨のようで。


同時に、羨ましいと思った。



そっと触れた、自身の頬…。
自分で触れてもわかる程、ひんやり冷たい。



「―――はぁ」

思わず出た溜め息。
やはり、その異端な瞳からは何も出てはいなかった。




「―――ウルド?」


イオの言葉にはっと我に返ったウルドの表情は、どこか哀しげで、儚げだった。


「どうかしたの…?」


心配そうに顔を覗き込んでくるイオ。
涙の跡がまだ新しい。


「いや……なんでもない」

そう自分に言い聞かせるように答えるウルドの瞳は、本人の意志に反し、薄闇の中で妖しく紅く輝いていた。