「あー。まったく…お前らが羨ましいわ」
イオとウルドのすぐ側から聞こえたのはアルの声。
「へっへー。羨ましいだろー?」
イオはアルにべぇっと舌を出し、ふざける。
しかし、一方のウルドはそんなイオの言動が恥ずかしかったのか、手で顔を覆い俯くのだった。
「くそーっ。
あー羨ましい。超羨ましい。殴りたいくらい羨ましいでーす」
アルは悔しいながら、負けじと皮肉な返事で対抗してみせる。
しかしイオには怯む様子なんて少しもない。
不敵な笑顔に、挑戦的な視線。
アルはごくりと生唾を飲み込んだ。
「あはー。私を殴っちゃいます?
殴っちゃっていいのかな?
そんなことしたら…誰かさんが黙ってないよー?」
イオは、依然として俯いたままのウルドを一瞥する。
ウルドはイオの視線に今のところ気付く素振りはない。
しかし、ウルドの強さと非情さを目の当たりにしたアルには鳥肌ものだった。
「あ、いや…その…。
―――はい、参りました。すいません…」
仕方なく折れるしかなかったアルは深く溜め息。
一方ガッツポーズをし、喜ぶイオ。
「やったね、ウルド」
イオの言葉に、ゆっくり顔を上げたウルド…。
ウルドの目に飛び込んできたのは、しょんぼりとうなだれるアルの背中だった。
「――アル…どうしたんだ?」
ウルドの質問に、アルは頑なに首を横に振るばかりだった。
「おーいっ。お前らいつまでも何やってんだよ?
あんまり遅いと日が暮れちまう」
ハノイの呼び掛けが辺りに響く。
もう本当にお別れの時間だ。