「どうしたの?」


イオは立ち上がったウルドを見上げる。
月明かりの中で輝く瞳が幻想的。


ウルドはイオを一瞥し、ロングコートのポケットから青い小さな宝石の付いたネックレスを取り出した。

質素で可愛らしいが、ウルドが持つような代物ではない。



「会ったらこれをイオに渡したかった。何がかあった時、きっとイオを守ってくれる」


ウルドはイオにネックレスを手渡すと、窓を開け放った。
気持ちのいい夜風が二人の髪を撫でる。
昼間雨が降っていたことなど忘れてしまいそうなくらいに澄んだ夜空。


「どこ行くの?」


「…少しイオの前から消えるだけ。
明日の朝、町の時計塔の下で待ってるから」



それだけ言うと、ウルドは窓から飛び下りた。
ロングコートを風にはためかせ、一瞬でイオの前から消えたウルド。



その行動を見届けていたイオは突然あることに気付いた。



「この部屋‥‥三階だっ」

大慌てで窓の下を覗きこむがウルドの姿は見えない。

「ふぅ‥‥。姿がもう見えないってことは無事ってことかな。


そういえば、ウルドはどうやってこの窓を叩いたんだろう?」



謎多き男ウルド。
やはり彼は本当に悪魔なのかもしれない。



しかしイオは不思議と恐くはなかった。
ウルドには優しい心があるとわかったからだ。



「ウルドだからできたのかな」



一人イオは頬笑んだ。
手にはウルドから渡されたネックレス。




「私、もう一人じゃないんだよね」


新しい旅。
今までの孤独に苛まれる旅は終わった。



「ウルド‥‥」


孤独なイオを救った悪魔のような救世主。




早すぎる展開にまだ戸惑いを隠せないイオ。


「今度こそ、おやすみなさい…」



逸る気持ちを抑え、イオは再び夢に堕ちていった。