身体に感じる風。
目まぐるしく変わる景色。


太陽をいつもより近い場所で拝む…。









「うわーっ。凄い凄い。

こんな体験…一生に一度あるかないかだよ。
風が気持ちいい」



感動して大興奮のイオは、ロキの背の上で喚声を上げる。




「へへへっ。イオちゃんテンション高いねー。

俺じゃんけん勝ってよかったわ」



ロキはイオの為に急上昇や急降下を繰り返した。


その度、イオが嬉しそうにはしゃぐのでロキは得意になる。




「――おいロキ、あんま調子に乗ってイオちゃん落としたりするなよっ」



少し距離をおいて飛行するのはハノイとウルドペア。


この組み合わせはお約束。




「―――まさかお前の背に乗せてもらうことになるとはな……」



ウルドの呟きが背中から風に乗り、響いてきた。



「悪かったな、俺で」


ぶっきらぼうなハノイの言葉。




そんなハノイの反応も気にすることなく、ウルドは辺り一面、果てしなく広がる雲の海原を見ていた。


紅の双眼に映るは悲しげな程に澄んだ碧空。






「―――何急に静かになってんだよ……」


急に静かになった背中が気になり、振り返ったハノイの目が捉えたウルドの姿。



皮肉な程に整った顔立ちは無表情に、紅の瞳で遥か彼方を眺めていた。






何を考えているんだろう…。



ハノイはまた、前に向き直った。



双方無言のまま、羽ばたく翼の音だけが一定のリズムを生む。







気まずいこの状況。




やがて口を開いたのは、ウルドの方だった。








「―――お前に問いたいことがある…」





控えめに、ぽつり呟かれたウルドの言葉。




「ああ」




ハノイは前方に見える町を見据えたまま、静かに耳を傾けた。