近づく足音。
高まる緊張。



イオはウルドの背に隠れるようにして飛び出す機会を伺っていた。


息を殺し、高鳴る鼓動を抑える。






「そこにいるのはわかってる。おとなしく出てこい」



ロキが物陰に近づく…。

その物陰にはイオとウルドが隠れている……。




「ほら、無駄なことは止そうぜ…客人さん」



ロキが物陰を覗きこもうと、身を乗り出したその時…。






「―――がふっ…」


ロキの顎に衝撃が走った。鈍い痛み。


口の中に血の味が広がる。
口内を切ったようだ。






「お前…煩い」




涙目のロキが見たもの…。



それは、冷酷な深紅の眼差しをこちらに向ける悪魔が、栗色の髪の愛らしい少女を守るようにして立っている姿だった。





目を反らせない威圧感。
残酷なほどに歪んだ表情の相手を前にして、恐怖に自由を奪われる。



「――ひっ…
ば、化け物………」



ロキはへなへなと枯れた大地に座り込んでしまった。

対するウルドは、ロキの言葉が大層気に入らなかった様子。眉間に皺を寄せ、整った顔を歪める。






「――――黙れ」



このまま放っておいたら、本当にウルドはロキを亡き者にしてしまいそうだ。


それを感付いたイオはウルドの手をぐいと引いた。




「ウルド…誰かを傷つけるのは止めて。
これだけはお願い」





イオの真剣な物言いに、ウルドはすぐに優しい表情に戻る。




少し悲しそうに表情を曇らせ、引き下がった。






止めて…。

そんな目で俺を見ないで。



俺は化け物じゃないよ……。













「でも…ウルド。
私のこと守ってくれてありがとう。

とっても嬉しかった」




イオの笑顔にまた、ウルドは救われる。


目の奥がつんとした。