ブォォォォン…
客席の椅子越しに伝わる激しい振動。
耳について離れない爆音。
「あぁ……耳障りだ」
ウルドは不機嫌そうに髪を掻き上げる。
「我慢してくれよ、ウルド。風力車はこういうもんなんだよ」
アルは運転席から答えた。
あの後互いに軽く自己紹介をし、促されるまま風力車に乗り込んだイオとウルド。
アルの話によると、荒野の移動手段はこのような“風力車”という乗り物だそうだ。
風力車は風の魔力の籠もった道具“ウィンドジェム”を原動力とした乗り物。
道具の魔力で渦を巻くように激しい爆風を起こし、太く大きなタイヤを回すのだ。
その際、出る音がとてつもなく煩い。ウルドにとっては耐え難い公害らしく、先程から不機嫌なのだ。
イオたちのように歩きで荒野を越えようとする旅人は多くないのだそう。
「ねぇアル、どのくらいで町に着く?」
イオが客席の椅子の上に寝転がり、アルに問う。
今は客がイオとウルド以外いない。
「ん?
町まであと二時間弱」
アルはハンドルを巧みに操る。
地面から飛び出すように出っ張った岩を上手く躱す。
その度に車体が激しく揺れ、イオが悲鳴をあげるのだった。
「ちぇー。まだまだ時間かかるんじゃん。
とっくに前から町…見えてるのになぁ」
イオが呟く一方、ウルドは一人景色を眺めていた。
広大な荒野。
見渡すかぎり枯れた大地。
確実に進んでいるのにあまり変化のない景色にうんざり。
(ああ…酔いそうだ)
ウルドは激しすぎる揺れと、激しすぎる騒音に気分を害していた。
しかし、目に映るはどこか楽しげなイオの姿。
(イオが楽しんでいるなら…我慢だな)
ウルドは視線を窓の外に移した。