「あっ、あっちに見えるの町じゃない?」
土埃に霞む景色の向こうを指差し、はしゃぐイオの言葉を合図に、二人の歩くペースは上がる。
確かに見える。
乱立する建物の影。
「もしあれが蜃気楼とかだったら笑っちゃうよね」
イオの冗談にウルドは“そんなはずないだろ”と笑った。
さすがに二人とも疲労が溜まってきている。
時折、この荒野に吹くつむじ風。砂や土を含んだそれは目障り。
イオの栗色の髪を非情にも乱していくのだ。
「この辺りの人たちはどうやってこんな荒野を移動してんだろー」
イオは素朴な疑問を吐く。それにはウルドも納得したようで、感慨深そうに頷いている。
この荒野を移動する手段…。
手段…。
ブォォォォン……
遥か遠く。
先程まで二人で歩いてきた方角から機械の音が聞こえてきた。
「何…?」
イオが呟き、振り返る…。
“何か”は土埃を巻き上げ、こちらに爆走してくる。
迷惑な程の騒音。
何かの乗り物だということはわかる。
「――なぁイオ。
あれが移動手段か?」
さも迷惑そうに眉を寄せるウルド。
煩い物も嫌いらしい。
ブォォォォン…
ブオオォォ…
徐々に姿を現す“何か”。
あっという間に近づいてきて、イオとウルドの前で止まった。
「旅人さん…まさか歩きでこの荒野を越えようとしてんのか?」
思いの外大型だった乗り物。
運転席と思しき場所からぬっと顔を出した人物は、ゴーグルを外して二人を一瞥した。