「何だ――」
ウルドは幻想的な緑色の光に目を奪われた。
漂うように、無数の光がゆっくりと巡る小さな世界。
時の流れを忘れてしまいそう…。
神獣の力の偉大さに何度驚かされたことか。
『旅立つ汝らに、森の祝福を。
我は此処から出れないが、力を貸すことはできる。
困った時は我を喚ぶといい』
神獣が力を貸してくれる。そんなこと滅多にあることではない。
喚ぶ…つまり召喚ということだ。
神獣から教えられる、特定の呪文の詠唱が必要となる。
「――それって難しいこと?」
イオは一人、首を傾げた。
ウェリムーザはそんなイオを見て、愉快そうに笑った。
『――旅の少女よ、汝は面白いな…。
これだから人間は嫌いになれない』
ウェリムーザが笑う度、緑の光は輝きを増す。
上に下に、揺られて揺れて。
光は美しく、そして温かく広間中を漂い、彷徨った。
「ウルド…私こんな綺麗な光景初めて見たよ。
忘れないように、頭に焼き付けよう」
イオはきらきらと深緑の瞳を輝かせ、緑の光を一生懸命目に焼き付けていた。
「俺も初めて…。
見ているだけで優しい気持ちになれるから不思議だ…」
ウェリムーザは二人の旅人の姿を見ていた。
あの壁画…穏やかな瞳の大蛇。
まるで同じ。
人間好きの森の神。
遥か気の遠くなるような昔、人間によって森を消された。
しかし優しき森の化身はまた、人間を愛し慈しむ。
途絶えた信仰。
荒れた神殿。
それでも確かに森の神獣は存在していた。
訪れる旅人に試練を与え、力を貸す。
世界には他にもこのような神殿があり、このような神獣がいる。