曇る表情。
眉間に皺を寄せ考え込んでいるウルドに、イオは試練での出来事を言おうか迷った。
機会はいくらでもあったのに、自分から言ってこなかったいうことは、その話に触れられたくないのだろうか。
そもそも、ウルドの試練は何だったのか気になる。
「―――ねぇ、ウルドはどんな試練だったの?」
イオが明るく尋ねてみると、ウルドは困ったように笑った。
「どんな…だろうな」
普段口下手なはずのウルドに、イオは上手くはぐらかされてしまう。
これは恐らく、ウルドにとって触れられたくない話。
無理を言うのも悪いと思い、イオは仕方なく引き下がる。
「ウェリムーザ」
ふいにウルドが言った。
「うん?」
イオが反応すると、ウルドは部屋の植物が密集している辺りを指差した。
「あそこで眠っているのか…?」
ウルドは珍しくシリアスな顔をしている。
イオは“たぶん…”と頷いてみせた。
二人してウェリムーザに歩み寄ってみる。
安らかに眠る森の神。
植物に囲まれて、訪れる旅人を此処で待っている。
耳を済ませば、鼓動の音が聞こえてきそうだ。
「―――折角だから少しだけ触ってみない?」
イオがにかっと笑う。
慌てるウルドを横目に、さっとウェリムーザに近寄るイオ。
「ちょ…イオっ。止めた方がいい…。
相手は神獣ウェリムーザなんだよ?」
いつの間にかウルドはいつものへたれに戻っていた。
異質な紅い瞳は右へ左へ泳いでいる。
「失敬っ」
イオがウェリムーザに手を伸ばすのを、ウルドは頭を抱えながら見ていることしかできなかった。
「俺…どうなっても知らないからな」
ウルドの泣き出しそうな叫びは広間中に響いた。