広がる世界はどこまでも澄み渡る青空の下。
草花が美しい道なき道の上にイオは立っていた。
優しい花の薫りは鼻腔を擽り、懐かしさを含むこの景色は心を踊らせる。
この道を抜ければ、“あの場所”に辿り着く。
心に導かれるまま従い、吸い寄せられるかのように足を進める。
凸凹した足元。
足にまとわり付く草花の感触。
全てが現実味を帯び、試練だということを忘れてしまいそうだ。
ほら、段々見えてきた。
森の中、少し開けた小さな丘の上。
太陽の光を燦々と浴びて、朝露光る青い花の群生。
小さくて儚くて、消せない記憶の片隅にいつだって存在していた青い花。
名を……
「勿忘草…?」
宿で見た花にそっくりだった。あの花は勿忘草…。
あの時ウルドが言っていた花言葉がどうしても思い出せなかった。
そよそよと風に揺れる青い花を見ているとどうも思考が鈍る。
懐かしさが湧いてきて、考え事などどこかへ飛んで行ってしまう…。
「―――ずっと忘れていた気がする。この場所……。
私はここで何をしていたんだっけ―?
一体何を――――」
もどかしい。
どうしても思い出せない。
見渡す限りの青い花の海。丘の上に一本だけ小さな木が立っている。
世界の始まり。
世界の果て。
この景色はまるで別世界のように幻想的。
何か手掛かりを見つけたい…。
足元の勿忘草を踏まないように注意して歩いた。
此処は自分にとってかけがえのない場所。
心がそう告げる。
“約束の木の下”
イオは小走りで木に駆け寄った。
たった一本だけ、青い花に守られるかのようにそれは存在していた。
“約束の木”
この響きは心にすっと染み込む。
少しずつ“あの日の扉”は開こうとしている。