目の前の刺客は確かに自分の姿をしていた。
色素の薄い金髪も、憎らしい紅の瞳も、服装も大鎌も…。
見間違えることはない、紛れもない自分自身。
奴は皮肉るように笑みを浮かべている。
寒気がするくらいのぎらつく紅の視線。
神聖なる此処はただですら居心地が悪く、体力の消耗だって激しい。
こんな場所で自分の虚像と戦わなければならないなんて…。
ウルドは手っ取り早い方法を考えていた。
この狭い通路では鎌を使う攻撃は不向き。だからといって魔の力を使うのは出来る限り避けたい。
一体どうすれば………?
ウルドが眉間に皺を寄せ、唸っていたその時。
「……っ」
ぴりっと痛む頬。
指で触れてみると血が出ていた。
『俺を倒さないと前には進めない。
お前は甘いんだ。こんなに力を持っているのに、何故使うことを拒む?』
奴がウルドに放ったのは風の刄…。
“鎌鼬”と呼ばれる風属性の簡易魔法。
『本気で戦わないと命を落とす…。
神獣の試練はそうは甘くない』
奴は次の攻撃を仕掛けようと構えた。
本気で戦わないといけない…。
ウルドは覚悟を決める。
自分自身が相手なら、魔法は全て防御で弾かれるだろう。
ならばどうするべきか。
「―――あ」
突然閃いたようにウルドが声を上げる。
奴は自分であり自分ではない。
雰囲気が人間というより魔物に近い。
自分に有り、奴に無いもの……。
人間らしさ。
「―――なぁ?少しお前と話がしてみたい」
ウルドは柔らかな表情で奴に声を掛けてみる。
この世にまるっきり同じ人物が存在できるわけない。
よって奴は心の闇が作り出した不完全な存在ということになる。