地鳴りのような音。
吹き荒ぶ風。
張り詰めた空気。





黒い魔方陣の中心でウルドは瞳をゆっくり閉じる。


その瞬間、凪が訪れる。





『絶望に苛まれて眠れ…』




囁くように紡がれた言葉。闇は更に濃度を増して、“刺客”に襲いかかる。








これは数ある強力な魔法のひとつ。
闇を属性とする間接的なこの攻撃は、見る者に恐ろしい地獄を見せる。






刺客の頭上、形を成した無数の黒い刄。



相手に逃げる隙を与えないそれは、無惨にも一斉に降り注ぐ雨の如く。



金属の鋭く乾いた音。
地面の石畳にぶつかる不快な音。




ウルドは遠くを見るような目でずっとその様子を見ていた。生気の籠もらない瞳でずっと…。








攻撃が止む頃、ウルドはやっと我に返った。


自分がしたことを思い出し、後悔の念から石畳にしゃがみこむ。





また、自分は“力”を使ってしまった。

自らの手を汚さずにして、こんなにも惨いことを…。





「俺はこのままでは本当に壊れてしまう…」




イオに会わせる顔がないと、一人嘆くウルドは“刺客”の様子を確認する。









「え……
嘘だろ?」





あり得ない。
あり得ない。


どうして生きている?
あの攻撃を食らい、何故生きていられる…?





奴は先程の場所に変わらず立っていた。



こんなこと普通はあり得ない。

あの魔法は一撃必殺と言われるまでの残酷で恐ろしい術…。

あまりの凄まじさに正気の自分は絶対に使わないくらいだ。







奴は何者なんだ……?





嫌な予感は一つだけ。


奴のシルエットに見覚えがあった…




あれは紛れもなく自分自身。






試練とは自身と向き合うこと。








『俺はお前だ』


認めなくない姿をした自分はウルドにとって聞きたくない言葉を吐いた。