気の遠くなるような昔記された言葉は、未だしっかりと消えることなく存在していた。




「本当に昔書かれた言葉なの…?
まだこんなに状態がいいなんて」



イオは記された言葉を目で追った。


難しい言葉の羅列。
イオにとって何より苦手な分野。



自分が駄目でもウルドなら…。


微かな期待を込め、さり気なくウルドに視線を送る。


ウルドは少し壁と睨み合った後、小さく「よし」と言った。





「森の神の瞳は金色に輝く。限りのないその命、全ての命の平穏を願う」




人間と大蛇が平和に描かれた壁画の言葉。



「金の瞳…。
金の宝石っ」



イオはオブジェから外した宝石の一つを手に取った。

この壁画には金色の宝石を…。




壁画の中、大蛇の瞳であろう部分の窪みにすっぽりと填まる。

寸分のズレもない。





この調子であと三つ。
言葉の意味と宝石の色を関連付けて考えれば、自ずと答えは見えてくるはず。





イオはウルドの読み上げる壁の言葉に耳を澄ます。





「燃え上がる灼熱の炎。森の神は怒りと悲しみに震える。消えていく森の命に神は人間の放つ赤をただ見ていた」





戦火に包まれる森と大蛇の壁画。炎で赤く燃ゆる森を大蛇はその瞳にしっかり刻み付けている。





「――赤い炎を見ていた。
…赤い宝石」





イオの判断は正しかった。燃える森の壁画に、赤い宝石はしっかりと収まる。






「怒れる森の神は自らの命を削り、嵐を呼び起こす。激しい雨は戦火を鎮めた。神は森の残骸に一人、涙した。」






嵐の中逃げ惑う人間と、鎮静される戦火。
何もかも消えた森に一人、残された大蛇は悲しげ…。




「涙を流す…だから宝石は青」




もうここまで来れば大丈夫。しっかりと青い宝石は収まった。





ぼんやりとした明かり。
広間には二人の声だけが響く。



「残るは緑の宝石だけ…」

イオの言葉にウルドは深く頷いた。