「…勿忘草。綺麗な花だろう?
花言葉は確か……」


思い出そうとする店主。
それを見たウルドがぽつりと口を開く。


「『真実の愛』
『私を忘れないで』」



思わぬウルドの助け船に、店主は驚きながらも確かに頷いた。

花に興味の無さそうな人物が、意外にも花に詳しいだなど誰が思っただろうか。

イオも感激したようで、拍手までしだす始末だ。



「すごいねウルド。もしかして花好きなの?」



イオが自分を誉めてくれている…。
普段なら照れて顔を赤らめるウルドだが、今回は違った。



「何となく知ってたから」


ただそれだけ言うと、目線を反らした。


別に機嫌が悪い訳でもない、寧ろ誉められて本当に嬉しかった。


しかし、その時ウルドは誉められた喜びを覆い隠してしまう程の哀しさに蝕まれていたのだ。




幼い記憶など流れる時と共に薄れていくのは仕方がないこと。
しかも自分は“あの日”とは似ても似つかない程に悍ましく歪んでしまった。




“あの日”を思い返し、縋り付く自分の愚かさに反吐が出そうになる。



イオに思い出してもらいたい、しかし自分を知られるのが恐い。



なんて自分は我が儘なんだろう…。



ウルドは眉間に皺を寄せ、一人で考えこんでいた。





「――ド…?
ウルド?」



イオに呼ばれ続けていたことに今気が付き、咄嗟に表情を取り繕った。



見るとイオは少し気遣うように自分を見ている。



「もう店主さん行っちゃったよ。

ずっとしかめっ面で考え事してるんだもん。呼んでも反応しないし…どうしたのかって心配した」



そう言うとイオはベットに腰掛けた。
少しむすっとしてるようにも見える。




「悪かった…。ごめん」


ウルドが丁寧に頭を下げると、イオの表情はすぐにいつもの笑顔に戻った。



「ふふー。やっぱりウルドはしかめっ面よりへたれな顔の方がいいね」


イオに言われて自分の顔に触れてみるも、その言葉の意味は解らなかった。