「似合うって…ただ好きなだけなのに」


ぼそりとウルドが呟く。
少し考えた後、再びストローを口に加えた。


やはりどこか幸せそうに飲んでいる。
どうしても、この平和呆けしたような微笑みを浮かべるウルドが、敵の前になると物騒な大鎌を容赦なく冷酷に振り回す人物と同一人物には見えない。





「お客さん、その瞳……綺麗な紅だな」



ふいにマスターがウルドに声をかける。
一瞬ウルドの動きが止まり、ゆっくりと顔を上げた。



「そんなこと言うのこの村の人くらいさ。

世間一般では…俺は化け物扱いだ」



珍しくウルドが他人の前でよく喋った。

マスターは呆気にとられているようで、洗った食器を拭いていた手を止めてしまった。




「そうか…。確かにこの世界は俺らに厳しい。

俺だって最初は世間の風当たりに苦しんださ。
この背中の翼さえなければ俺だって人間と変わらないのにって」




マスターは頼りなく笑うと翼を広げた。
白い羽根がふわりと舞う。




「わあ……綺麗」


先程まで畳んでいたのだろう。
イオは今の今まで翼の存在に全然気付いていなかったようで、喚声をあげた。





「綺麗とか……お客さんは優しいね。

もしかして俺が人間じゃないって気付いていなかった?」




マスターの問にイオは深く頷く。



「ウルドは気付いてた?」

ウルドも気付いてなかっただろう…。そう思い、ウルドに尋ねてみる。


しかし残念なことに、ウルドは申し訳なさそうに小さく頷いた。



「えぇー?
私だけ気付いてなかったってこと……?」




「そうだね。彼は気付いてたよ。

俺のことをじっと見たときあったでしょ?そのとき気付かれたなって―――」




マスターがそこまで言った時、近くの客席から声がかかった。