ずっと魅入ってしまっていた。
こちらの視線に全く気付く気配のないウルドはずっとメニューを眺めている。



「お待ちどうさん」


マスターが飲み物を運んできてイオは不意討ちを受けたようにはっとする。



ウルドのことをずっと見つめていた自分が急に恥ずかしくなった。



「ありがと…」


顔を赤らめながら二人分の飲み物を受け取り、ウルドに片方手渡す。



「どうも」


たぶん好物であろうトマトジュースを前にして、心なしかどこか嬉しそうなウルド。



すぐには飲み始めずに、ストローをくるくる掻き混ぜている。氷がカラカラと涼しげな音楽を奏でる。




「飲まないの?」


イオが尋ねると、ウルドはストローを掻き混ぜる仕草をストップさせた。



「イオはまだ飲まないのか?ココア……だっけ?」



ウルドはまたストローを弄り始める。すぐに何か弄るのも癖だろう。


男っぽい骨張った長い指でくるくるとストローを回し操る。




一向に飲み始める気配のないウルドに、これは自分が飲み始めるのを待っているのかもと読んだイオはココアを飲み始めた。





「美味しい?」


唄うようにウルドがイオに声をかける。
イオはその声が心地よかった。



「うん、美味しいよっ」




「ならよかった」


薄ら笑い、自らも飲み始めるウルド。




やっぱりというのか、ウルドにはトマトジュースがよく似合う…というか似合いすぎる。


悪魔のようなウルドが血のように赤いトマトジュースを飲む姿は妙にしっくりくる。


悪魔と吸血鬼は違うのだけど。






「お客さん、あんたトマトジュース似合うねー」



マスターにまで言われる始末。
イオは思わず吹き出してしまった。




「?」


一人、ウルドはよくわからないという表情でマスターとイオを交互に見た。


しかし何もわからず、首を傾げるばかりだった。