イオが鞄から赤い小さな物体を取り出した。
“フレイムジェム”
赤く掌サイズの魔力の籠もった道具。
投げてぶつけるだけで焔を起すことができる旅の必需品。
戦闘ではもちろん、野宿でも役に立つ優れ物だ。
「はい点火ー」
掛け声を上げ、イオは大きく振りかぶり、フレイムジェムを薪の山へ投球。
赤い光が仄かに生じる。
薪に火が灯り、揺らめく焔が辺りを優しく照らす…。
「よっしゃ。我ながらナイスフォーム」
おおはしゃぎのイオを見てウルドも小さく笑みを溢した。
「何だかイオは他の人間となんとなく違う気がする…」
ウルドはぽつり呟く。
紅の瞳は、イオではなく燃え盛る薪をぼんやり見つめている。
何か思い出しているのか、黄昏ているのか…。その表情は優しかった。
「どういう意味?」
イオは話に興味を持ったのか、ぐいと身を乗り出す。
深緑の瞳に栗色の髪…。
イオの姿が薪の炎に照らされる。
「……なんというか、イオは俺に普通に接してくれるから。
俺と旅することに迷いとかなかったのかって…」
ウルドの声はどこか弱々しい。
時々こうしてウルドは寂しげに顔を曇らせる。
「私、ウルドは悪い奴じゃないってわかるから。
人間見た目じゃないよ、心だよ心。
それにウルドのこと大切な仲間だって思ってる」
イオははにかむと、ウルドにパンを差し出した。
何の変哲もないただのパンにジャムが塗ってある。
「ありがとう」
パンを受け取るウルドの表情はもう明るくなっていた。